「日本各地をまわって、ローカル色の大切さを教えてもらったから、今度は自分が暮らす街で、ローカル発信のイベントを作ってみたい」リクオ

山口洋リクオさんらが出演し、昨年9月、江の島展望灯台サンセットテラスで開催された「海さくらコンサート」が、今年は名称を「UMISAKURA MUSIC FESTIVAL」に改称し、9月5日(土)、6日(日)の2日間に渡って行なわれる。ステージも増え、現在発表されている総出演者は26組!
7月のプレイベントにも出演した山口洋は6日のメイン・ステージ、ナイト・ステージ両方に出演。リクオさんは両日、合計3ステージに参加する。山口洋リクオさんによるTHE HOBO JUNGLE TOUR 2009を終えたばかりのタイミングで、今年からこのフェスの「音楽プロデューサー」に就任したリクオさんにインタビューしてみました。(杉山敦/TUK TUK CAFE
―――去年の「海さくらコンサート」は、会場の海を一望できる野外ロケーション、地元、湘南、江の島の人たちがフェスを作っているという雰囲気もよかったのですが、なにより古謝美佐子さんが歌ってる間、トンビがその上空に集まり、舞ってるシーンは、見ていてミラクルでした。
リクオ あの光景が「海さくら」のイベントを象徴してるなと思った(写真提供=「海さくら」)。そこにいる人同士だけではなくて、自然とも共鳴する、エネルギーを循環しあえる、というのがあのイベントのひとつの魅力だと思う。おしつけがましくなくね。
「海さくら」との付き合いはもう3年になるね。最初は「海さくら」主催イベントの出演者として付き合いが始まって、次の年から出演者のブッキングやステージ構成を含めて手伝うようになって、より主催者側に近づいた感じ。「海さくら」との付き合いがきっかけになって、去年の5月に、東京から湘南に引っ越してきたんやけど、この街での暮らしをかなり満喫してます。
ここ10数年、東京に住みながら年間120本前後のツアー暮らしを続けてたんだけど、どうもツアーに出てるときのほうが五感が開放されてる感覚があったんです。いい景色を見たり、匂いの違いを感じたり、気候の変化を肌で感じたり、ゆったりとした時間の流れに身を委ねたり。で、夜はステージで弾けると。そういう環境の中で、自然に五感が開放されて、エネルギーが心地よく循環するのを実感してたんだけど、東京に帰ってくると、ツアー中よりも時間にせかされて、頭ばっかり働かせて、五感のバランスが悪くなってね、ツアー中とは別の疲れを感じて(笑)。
それで、自分の暮らす場所でも、もっと心地よいエネルギーの循環ができないかなと、もうちょっと楽に行こうかみたいな気持ちが強くなってきてね、引っ越しを考えるようになったんです。江ノ島界隈だと、東京に通える距離でありながら、自然からもエネルギーをもらえる暮らしができる、で飲み屋も結構ある、それがええなと。
去年の「海さくらコンサート」はまだ引っ越してきたばかりで、地域との関わりが少ない状態での参加だったけれど、この一年で自分の暮らす街への愛着も強くなって、地元の人達との関わりも深まってるから、今年からは一地域住民という立場ではじめて参加するという意識が強いね。
―――「海さくら」というのは、江の島、湘南の海を綺麗に守っていこうと、海岸のゴミ拾いを定期的に行なったり、地元でコンサートを主催している団体だそうですね。
リクオ 「海さくら」代表の古澤君は、家が船具を作る会社を営んでいたこともあって、幼い頃から江ノ島に通い続けて、ずっとこの江ノ島湘南に強い思い入れがあって、それで数年前に、江の島の海をクリーンにして次世代に残していこうという主旨で「海さくら」を立ち上げたそうです。具体的な活動としては、月一回の江ノ島ゴミ拾い、各種イベント開催、イベントの収益金で島内各所にゴミ箱設置など。「海さくら」はタツノオトシゴに逢える海を再生することを一つの目標にしていて、そのために二枚貝の養殖をすすめるプランもすすめているそうです。
自分は基本的に「UMISAKURA MUSIC FESTIVAL」の音楽プロデューサーという立場で「海さくら」と関わっていて、ゴミ拾いにも時々参加してます。
このフェス自体は、環境問題に対して具体的な異議申し立てをしたり、アクションを求めることを第一の目的としたイベントではないんです。足を運んでくれる人達には、まずは音楽イベントとして楽しんでもらいたいなと。それで、江の島の最高のロケーションと音楽を通して、人同士だけでなく、自然との繋がり、それらのエネルギーの循環の中で、自分たちが生かされてるということを実感してもらえたら嬉しい。その実感が社会へのコミットにもつながると思うんです。
―――僕は、8月頭に神奈川・藤野の廃校で開かれた「ひかり祭り」というフェスに行ったんですが、そこでは高尾山にトンネルを掘って道路を造るという公共事業がいかに生態系にダメージを与えるかという問題もアピールされていました。リクオさんや山口洋にも出演していただく、8月29日に東京代官山で開かれるイベントにはスタッフとして関わっているのですが、それは沖縄の基地や環境問題に取り組んでいる沖縄のミュージシャンたちが立ち上げたフェスです。そうやって地元密着、ミュージシャンが地元や社会的な問題とコミットしていくイベントも、増えていってますよね。音楽が問題を知るきっかけとなる。
それと、イベント会社が主導しなくても、音楽メディアが報じなくても、こういったフェスやイベントがつぎつぎに開催されていく傾向を感じてします。それは、リクオさんや山口洋のツアーの在り方にも共通していますよね。オルタナティヴであり、インディペンダント。
「自力で街に入って、いろんな風景に出会い、人に出会い、音楽を通じて、人と交流するのはミュージシャンの原点だと、俺は思うよ」山口洋は語っていましたが、この方法はリクオさんのアドバイスあってのものだったということですが。
リクオ アドバイスというか、各地にどういうライブ・スポットがあるか、どういう人がいるか、それをリストにして渡しただけで。そういう草の根ネットワークを利用してツアーをするということに関しては先輩だとは思うけど……友部正人さん有山じゅんじさんら先人のあとを追いかけて、それをまた次に繋げていくというのが自分の役割だと思うので。橋渡し。
メジャーのあり方も、こういうやり方もどっちもありだと思う。選択肢がいろいろあったほうがおもしろい。メジャーを拒否する必要もない。でも今は明らかに時代の転換期だし、いろんな活動の仕方を試せる時代に入ってきてるので、やりがいを感じてる。キーワードのひとつは「ローカル発信」。そうなってきたほうがおもしろい。
その街、その場所でしかできないイベントがあると思う。日本各地をまわって、ローカル色の大切さを教えてもらったから、今度は自分が暮らす街で、ローカル発信のイベントを作ってみたい。今回のフェスは東京ではできない、湘南、江の島だからできるローカル・イベント。でも、ローカルに閉じたイベントではなく、中央に向けても発信しやすいのが湘南ならではだと思う。地元の人はもちろん、全国各地の人達にも参加してもらいたい。中央発信があってローカル発信がある、メジャーがあってインディペンダントがある。そういう多様性がシーンを豊かにすると思う。
―――リクオさん山口洋のツアー日記を読むと、知らない町の聞いたこともなかった会場が、とても魅力的なんですよね。たとえば三重の「月の庭」や、宮城県白石市「カフェ・ミルトン」
リクオ どちらも磁場のある場所やね。
実際にその街に行くと、そこに住む人にとって東京は必ずしも「中央」ではなくて、自分たちの時間の流れ、価値観の中で暮らしている。それを知ることで勇気づけられるし、自分の中の風通しがよくなる。
―――今回の「UMISAKURA MUSIC FESTIVAL」は9月5日(土)、6日(日)の2日間の開催。5日の会場は「虎丸座」「オッパーラ」ですが、どんなところですか? 日曜は去年と同じ江の島展望灯台のサンセットテラスですね。出演者も紹介してください。
リクオ 初日の土曜の会場はどちらも江の島へ渡る橋のたもとに立つ円筒状のビル、「ビュータワー」の中にある店で、2フロア、サーキット形式で出入りも自由。このビルには飲食店も入ってるし、海岸のすぐ前に位置しているから、イベント前でもイベント中でも外出して海や島で過ごしてまた戻ってきてくれてもいい。「虎丸座」は7階、「オッパーラ」は4階。海と江の島が一望できて、夕陽の沈む景色が最高に美しい。
二日目の日曜は江の島に渡って、頂上の展望台にある野外のサンセットテラスがメインステージになって、それ以外に、江の島内屋内2ヶ所、野外2ヶ所ににフリーステージができます。夜はまた「虎丸座」で打ち上げの要素を含んだナイトステージがあります。
江の島はいい風が吹くから夏でも結構涼しいから、上にはおるものを持っていったほうがいい。二日目は雨だったら、江の島内にある「かながわ女性センターホール」がメイン会場になります。
出演者は30組近くに及ぶのでここで全員は紹介しきれないなあ(笑)。取りあえず、地元湘南からは南佳孝さん、ハミングキッチン、オレ、らぞく、Pすけ、bobinら。湘南のおもしろいところは地元を拠点に音楽で生活している人がけっこういるんやね。とにかくライヴのできるカフェやバー、ライヴスポット、海の家なんかがたくさんあって、コミュニティーFMも充実してるし、バッファローレコードやサウンドフィッシュのような洋楽専門のレコード会社があったり、なんか地域で勝手に楽しんでる感じがいい。
遠く沖縄からは、元ネーネーズ古謝美佐子さん。他には小坂忠さん、KeisonCRAZY FINGERS、Shyさん、MOONEYさん、山口洋は6日のメインステージとナイトステージの2回公演。奴は多分、初日の5日にもあらわれると思うよ。そして、活動停止を発表したばかりのウルフルズウルフルケイスケ君の5日出演も急遽決定しました。
このイベントは出演者同士のセッションも方々で行われる予定だから、当日のお楽しみで、思いがけない組み合わせ、化学反応も楽しんでほしいなあ。
UMISAKURA MUSIC FESTIVAL
http://www.umisakura.com/fes/main.html
9月5日(土)、6日(日)
会場=神奈川県・片瀬海岸ビュータワー内「虎丸座」、「オッパーラ」、江ノ島「エノスパ」前、「LON CAFE」「島の茶屋」「あぶらや・KAGURA」、江の島展望灯台サンセットテラス(雨天強風の場合は江ノ島内にある「かながわ女性センターホール」
山口洋は9月6日(日)江の島展望台でのメインステージ、「虎丸座」でのナイトステージに出演確定済み。