2002年、栃木祭り 2/2

前編に続いて、2002年4月のツアー「栃木祭り」のレポートです。執筆した、当時「丁稚」の藤井和夫は、現在、吹奏楽団「harmonize」の指揮者です。
「栃木祭り」随行日記 後編
随行丁稚=藤井和夫
4月17日(水)福岡・Drum Be-1
憔悴の果て
 夜も明ける頃、関門橋を渡り、九州に上陸。ヒロシはこの関門橋を渡ると「帰ってきた」と思うそうです。メンバー、スタッフ、憔悴しきってホテルに到着。空は完全に明るかった。さすがにラーメンを食べる気力もなく、ベッドに直行する。仮眠程度の睡眠をとって、すぐにスタッフは、本日の会場「Be-1」へ向かい、セッティングを行なう。
 どの会場でもそうであったが、怒濤のごとく「チキンシット」を演奏し終えると、いつも一瞬「シーン」となってから、拍手や歓声が巻き起こるのだが、その沈黙させてる感じがたまらなく格好よかった。「10数年ぶりに聴いたよ」と、上気しながら話す、スーツ姿の男性が印象的だった。
 打ち上げで、ヒロシと旧知の仲の、料理の美味しい某店に向かう。なんだかんだで朝5時になっていた。帰り際にヒロシは言った。「明日は、ゆっくり飲める」。
 明日、スタッフは14時間かけて東京に移動です。
4月21日(日)渋谷・セブンスフロア
東京ディスコナイト
 会場は、ヒロシを九州時代から知るマスターのお店「7th Floor」。岡山に続き、トップバッターは、ゴミ評論家こと、野口さん。徐々に会場が暖まってゆく。長谷川さんはまるでヒロシを公開録音のゲストに迎えたラジオのDJのようだった。ヒロシは「インターネットで流すなよ!」と、ヤポネシアンのデビューアルバムの制作秘話をこっそり話してくれた。長谷川さんの曲を入れるタイミングや、インタビューの語り口がとても心地よかった。
 山川王子や孝至さん(小林孝至/THE BOOM)も飛び込みで参加し、思い思いの曲をかける。控え室にいらっしゃった栃木様は、シャイなお客さんたちに業を煮やし、食べかけのチャーハンを僕に託し、フロアに出ていかれた。その後ろ姿は、これからピッチに出ていくサッカー選手のようだった。栃木様は会場のテーブルを自らの御手でお運びになり、ダンススペースをお作りになられた。そして圭一さんが登場。今宵もまた、老若男女たちが、踊り狂っていった。
 次々とかけられてゆく名曲。自分が知ってる曲でも、良い音で、大音量で聴くと、凄く気持ちがいい。こんな場所がもっと増えるといいなと思った。
4月22日(月)渋谷・ON AIR WEST
「神」昇天
 今日は、「栃木祭り」最終日だ。ライヴの本数は4本。なのに、こんなに長く感じるのはなぜだ? 一週間くらいしか東京を離れていないのに、一ヶ月ほど離れていた気分だ。
 リハーサルが始まる。圭一さんと山川王子が弾くギターアンプは、実は会場ごとに違っていて、今回は孝至さんのアンプをお借りした。王子がギターを弾いた瞬間、アクシデント発生。音の調子がおかしい。みんながアンプを取り囲んで、原因を追及。このアンプは真空管が何本か刺さっているのだが、そのうちの1本が何らかの原因で割れてしまっていたのだ。本番までに修復するのは無理そうだったので、代わりのアンプを用意する。こんな風にして、毎回アクシデントというアクセントがついて、ツアーは平穏にはいかないのであーる。
 僕はこのツアー中、リハーサルを含め、ライヴで演奏された曲達を何回も聴いたが、同じ曲でも一度たりとも同じ演奏はなかった。その瞬間のテンション、会場の空気感、様々なすべての要素が「今」の演奏に反映されるのだ。さて、今日はどんなライヴになるのだろうか。
 いつも通りライヴは「スウィム」から始まる。バンドは徐々に暖まり始めた。4曲目「怒りの門」のイントロをヒロシが弾いた瞬間、会場から歓声が上がった。会場にいたあなたは聞こえただろうか? 10年前の曲でも、「今」の曲だった。ヒートウェイヴには、隠れてしまっている名曲が被い。
 「憂鬱なファーブル」で、本日の秘密ゲスト、小林孝至登場! もはや「THE BOOM―1」である。見た目は、ヒロシがゲストのようだ。演奏が始まると、孝至さんと栃木様がアイコンタクトを取り合っていた。いつもは王子がやってることだ。「なまもの」の音楽の中で、メンバーそれぞれが自分の役割を果たしてゆく。バンドとしてのメンバーシップを感じた。
 アッという間に本編は終わり、本日も栃木様の「サマータイムブルース」の時間がやってきた。リハーサル時に、「今日は二階に上がってくれるんでしょ?」というメンバーの冗談に、「やめなさいっ!」と一蹴していた栃木様なのに、気がつくとステージを飛び降り、二階席まで駆け上がっていました。しかも、王子と孝至さんのギターソロのあいだに。お客さんたちの眼差しは、雲上の栃木様に向けられていた。二人は栃木様移動のつなぎなのだろうか? 滅多に叩かないヒロシのドラムなんて、以ての外である。やはり、「神」である。
 曲の終了と同時に会場に「栃木祭りのテーマ」が流れる。それをみんなで合掌。否、合唱した。鳴り止まないアンコールの声に応え、「らっぱ」を演奏する。最後に孝至さんが、栃木様を肩車して、祭りは終わりを告げた。
 祭りの後は、何だか淋しい気分になる。また、祭りはあるのだろうか? それは、「神」のみぞ知るのであーる。