2002年、栃木祭り 1/2

2002年5月発行の「東京地獄新聞」第77号から、2002年4月に行なわれた、「栃木祭り」ツアーレポートを転載します。
「栃木祭り」随行日記
随行丁稚=藤井和夫
「神」と呼ばれる男、栃木孝夫と、その御輿をかつぐ山口洋山川浩正、渡辺圭一による聖歌隊ツアー「栃木祭り」。各地で抱腹絶頂の祝祭を繰り広げた、この狂い咲き桜前線武装なき十字軍に随行した使徒、藤井による、たった2ページの紙面に押し込んだ6000字の祝詞をどうぞお読みください。……はっきりいって文字が多すぎて写真のスペース少ないです。アーメン。
4月13日(土)東京→岡山
「栃木祭り」前夜祭
 いよいよ始まるのである。「男祭り(=ヤポネシアン)」では、断じてないっ! 「栃木祭り」なのである!
 今回のツアーに使用する機材をコースターバスに積むために集合場所へ向かうと、なんと! バスが新しくなっている! 期待をふくらませてバスに乗り込むと、ビデオ付きテレビに足を快適に伸ばせるシート、さらにその座席が独立している!
 いつもお世話になっている運転手の後藤さんの指示に従って、機材が美しく収納されてゆく。車内は全員、男だ。毎回、この移動中に何をするかが、大問題なのである。だが、初日はスタッフだけなので、一同安心して岡山まで向かう。前日、わくわくして眠れなかった僕は、気付くと眠りについていてしまった。ふと目覚めて振り返ると、PA界の貴公子、益子さんはリハーサルの音源を聴いて、予習されていた。うーむ、こうやってライヴで素晴らしい音が創られていくのだな……。ムニャムニャ……。気がつくと予定通り21時にバスは岡山に到着した。さっすが、後藤さんである。
 早速、DJナイトが行われている「デスペラード」にスタッフは向かった。ヒロシは持参した沢山のCDと奮闘中だった。僕らが到着する前には、ヒロシ曰く「ゴミ評論家」の野口さんや、NO FEAR/NO MONEYの精鋭らが音楽をかけていたそうだ。お客さんは踊る者あり、語る者あり、音楽を楽しむ者ありと様々であった。だが、DJヒロシがお客さんに向かって「おいっ、そこのお前! オレの話を聞け!」と、必死に注意している姿には、思わず笑ってしまった。お客さんに注意するDJも初めてだ。次々とかけられてゆく良質な音楽とアルコールの力によって、それぞれの酔いの世界へ旅立っていった。
4月14日(日)岡山・ペパーランド
「神」、おしげもなく降臨
 朝9時に起床。すかさず、マネージャー堀田氏にモーニングコール。よし、今日も重大な任務を終えた、と、ひとりごちて集合時間の9時30分にロビーに降りてみるも、堀田氏はいっこうに現れない。起こしたはずなのにおかしいと思い電話してみると、二度寝していた。我々はお寝坊さんを置いてきぼりにし、ペパーランドへ向かった。
 本日の主催者、NO FEAR/NO MONEYの皆様と機材を下ろし、セッティング。そこでトラブル発生! ヒロシがドラムを叩くときに使う手袋が行方不明に! しかも、スタッフ一同、手袋の記憶がまったくない。僕と後藤さんで、バスを停めてあるホテルの駐車場まで戻り、空になったケースを白昼堂々あさりまくる。まるで、窃盗団だ。せっかく整頓して積んだ空ケースをさんざんちらかして、やっと手袋が発見された。そうこうしているうちに、ケダモノ圭一氏と、山川王子、我らが栃木様が会場においでになられた、そして、圭一さんが、わざわざこのツアーのためにムーンビームの柿木一宏さんからお借りした名器「フライングV」も到着。準備万端だ。今日のお昼ご飯は、NO FEAR/NO MONEYの朝子さん特製のお弁当だ! 身体に優しい、心のこもったお弁当は、きっと今夜奏でられる音にも影響するだろう。
 音速でリハーサルを終え、メンバーは会場の前に出て和む。ヒロシに、これからストリートミュージシャンをやるので、ギターを持ってくるように頼まれた。持ってくると、圭一さんと即興で創った「反逆」という歌を歌い出した。
 開演時間近くになっても楽屋に戻らないメンバー達を羊飼いのように楽屋に誘導し、本番までしばし時を待つ。ヒロシは楽屋に帰ってもまだ「反逆」という歌を歌っていた。
 アッという間に時間が過ぎ、本番が始まる。栃木様は登場と同時に頭をマイクにおぶつけになりながらも、1曲目の「スウィム」から会場をグルーヴの渦に叩き込んでいらした。ステージ上でギターを弾くのは高校以来という山川王子が、いつもより緊張した面持ちでリッケンバッカーを上品にかき慣らしていらっしゃいました。栃木様がボーカルをとる「サマータイムブルース」では、曲の冒頭でいきなり歌に入れないというアクシデントに見舞われながらも、その後は、絶唱しておられました。山川王子のギターソロで客席に乱入する栃木様。だーれも、王子のソロを見も聴きもしていませんでした。リハーサルの時に「栃木様、すごいすごい!」と言っていた僕に、ヒロシが「お前はまだ、栃木様の本当の凄さが解っていない」と言ってた意味が、今日、解りました。
4月15日(月)大阪・emme
ユダの裏切り
 NO FEAR/NO MONEYの皆様に見送っていただき、岡山を後にして大阪へ向かう。気がつくと僕はヒロシの前に座っていた。これは非常にマズイ事態だ。なぜなら、彼は移動中に眠ることができないからだ。絶えずヒロシを警戒していたのだが、後方から左右に揺さぶりをかけたくすぐり攻撃や、タバコの煙吐きかけ攻撃や、座席を激しく揺らす攻撃を阻止することは出来なかった。途中、トイレ休憩の後、戻ってみると、座席を回転できるというニューコースターならではの機能を駆使した反則技を悪マネージャーに仕組まれていた。これはもはや罰ゲームである。僕と栃木様は、ヒロシがバスに戻ってくる前に、何とか座席を戻そうと四苦八苦したが、動かないように手で押さえているという悪マネージャーの簡単なトリックに気付かず、座席を戻せないままヒロシが戻ってきた。「なぜ、僕はヒロシと向かい合わなければいけないのか?」という疑問を頭に浮かべながら、キャラバンは大阪へ進んで行く。
 ヒロシとスタッフは先にDJ会場に向かい、他のメンバーは自由行動。「30分後に電話をかけて」と言い残して街に消えた栃木様に電話をかけるが、栃木様はまったくお出にならない。数時間後、「なにか大変な事件に巻き込まれてしまったのではないか?」と心配している僕と圭一さんのところに、ご陽気な栃木様より「映画を観ていた」と、電話がかかってきた。このへんも「神」だけがなせるワザだ。
 僕たちが本日の会場「エンメ」に到着したちょうどその時、亀山の至宝と呼ばれている、マサル大王こと、岡田マサル氏がゴキゲンに音楽を流していた。その後、ヒロシの突然の紹介によって、当初、まったく予定がなかった圭一さんが、DJをすることになった。今まで、音楽をじっくり楽しんでいた会場が、突如としてダンスロアになってしまった! 我々スタッフは異常に重い机を移動し「完全ダンスフロア化」を実現させた。そこへ、山川王子も到着。栃木様も大王もみんな踊っている。なんか、とても幸せな空間だった。
 「神様」とケダモノとヒロシと王子と大王がいるこの空間は、いったい何なのだろう? 人間博覧会か? でも、さまざまな人種がかける音楽は、どれも素晴らしかった。やっぱり音楽はいいなぁ。
4月16日(火)大阪・バナナホール
「栃木祭りのテーマ」は僕らのゴスペル

 今日はどの曲もお客さんの反応が良かった。それだけ音楽が伝わっているということだろう。「ファイティングマン」での曲中、ヒロシは栃木様のスティックを取り出し、リズムを打って栃木様とコラボレーション。アコースティック編成の3人から奏でられる音量は小さかったが、音楽のエナジーは最大だった。繰り返されるサビが、胸を貫通した。いつの日か、夢の門をくぐりぬけられるのだろうか?
 「栃木祭りのテーマ」が終わっても鳴り止まないアンコールに応え、演奏されたのは「らっぱ」だった。
 ライヴ中に降っていた雨も上がったようだったので、搬出を開始する。が、搬出を開始した途端に、雨が降り出す。そんな日に限って、コースターバスを会場前に横付けできない。しかも、だんだんと雨が強くなってゆく。コースターバスに積み込む順番は決まっているはずなのだが、すでに運んでしまっている大事な機材たちがずぶ濡れになってしまうので、とりあえず順番を無視して積み込み始めてしまう。でも、壊れないように、綺麗に、美しく、整頓して積み込むのは、至難の業なのだ。スタッフは手分けして、機材にゴミ袋をかけて雨をしのいだり、携帯電話で会場と駐車場と連絡を取り合い、後藤さんをリーダーとして、現実版テトリスを時間と闘いながら無事にやってのけた。
 今日の教訓。「積むなら降るな! 降るなら積むな!」
 雨にずぶぬれになったまま、休む間もなく福岡に移動しなけらばならない。バスの中でスタッフに栃木飴が振る舞われた、めでたいときに振る舞われる酒は「振舞酒」というが、飴の場合は「振舞飴」というのだろうか? 飴を一粒、口に放り込んでみると、栃木様の味がした。
 バスは走っても走っても福岡に到着しない。まだか、まだか、と思っていると、山川王子が「一生、着かないと思えば良いんだよ。着くと思うからつらくなるのだよ」と教えてくれた。王子はブラジルへのフライトで、このことをお悟りになったらしい。
 丑三つ時を過ぎたパーキングエリアは薄暗くとても薄気味悪い。雨上がりの湿った空気の中から「ぺたっ、ぺたっ」と不気味な音がこだまするので振り返ってみると、堀田氏のスリッパの音であった。さすがコースター慣れしていると、一同感心する。(続く)