「みんなの日常が交わって、集まったひとつの会場で魂が触れ合うかのような時間を紡ぎ出す光景は、本当に素晴らしいんですよね」酒井佐知子


撮影=山口洋


―――山口洋&リクオの2008年のツアーのスタートとなったのが埼玉県入間市にある米軍ハウスを改造したMUSIC CAFE 「SO-SO」。この店のオーナー、酒井夫妻と山口洋との出会いは、2005年10月、埼玉県川越「鶴川座」でのイベントに遡ります。山口さん、このイベントに出演した経緯は? また、酒井さんはこのときの山口洋をどう感じましたか?


山口洋 「鶴川座」はね、もともとリクオが紹介してくれたんだ。歴史のある素晴らしい小屋だったよ。そこを切り盛りしてた酒井夫婦、特にオスの酒井君は情熱に溢れてんだけど、何だか空廻っててね。随分心配したもんだよ。余計なお世話だけど。けれど、入間に場所を移して、苦労して、奴は立派な男に変身してたんだ。苦労は人を磨くんやね。それは奴の顔に刻まれてるよ。


酒井道啓 ありがとうございます。そう言って頂いて、本当に嬉しいです。初めてお会いした時は、何もかも見透かされているかの様な気が山口さんから感じました。 前を向いてしっかり生きろよって。あの時、初めて「33」を聴いたのですが、その時が丁度33歳だったんですよ。衝撃というか、感動というか、運命というか。そこからまた何かが始まった気がしました。独りじゃないなって。 安心というか勇気が湧いてきましたね。一刻も早く、山口さんに認めてもらいという気持ちも持ちながら、日々を乗り越えてきて、その中で自分なりに答えを見つけてきたから今があると思います。 でもまだまだです。 調子に乗ると駄目なタイプって事を山口さんと、妻にも言われてるので、まだまだ頑張ります。


酒井佐知子 あの頃は、箱は拓いたものの、まだまだ何事にも自信ももてないみたいな時期で、あるのは真っ直ぐな情熱だけだったと思うんですが、なにせ私たち二人ともが、たどたどしかったから。いろんな方に迷惑やら心配もかけてしまったし。でも、閉館して入間に来てからもずっと気にかけてくれていた人たち(リクオさん、山口さんは勿論)に支えられて、また「SO-SO」を拓いてライヴの場としての運営もできるようになって。山口さんの意見は、たいていが真っ直ぐに心臓めがけてくるので時にすごい激震に震えてますが(笑)、酒井道啓にとってはすごくいい指標のような存在になっていただいてます。リクオさんも以前から、よく言ってたけど、山口さんと酒井は似てるところがあるなって、私も最近よく思うときがあるんですよね。不器用でぶっきらぼう。だけど、とっても温かいところとか。どうにも真っ直ぐにしか生きられない系の男子(笑)。そこが、すごい魅力なんですけど。寄り添っている人間的には、見ていてあまりに痛々しい時があって、もう少し楽に生きて行けないものかと思ったりもするんですが。多分、無理だろうなぁ……。貫いていただくしかないですね。ここまで来たら。


―――「鶴川座」が閉じる際の2006年1月のイベントにも山口洋は出演。酒井夫妻は埼玉の入間に「SO-SO」という新しいライヴハウスを創り、この春、オープン一周年の記念すべきアニバーサリーに山口洋&リクオのライヴが行なわれたわけですが、まさに「land of music」――音楽のある場所――を創っているという日々の喜びとはどういう瞬間にありますか?


酒井道啓 「SO-SO」から何かが始まっているなって思っていた事が、現実に起きていているのを感じた時ですかね。 言葉にするのは難しいですが……。例えば、ライヴの日に、お客さんが来て、出演者が演奏をして、スタッフが準備をする。ライヴが始まる。ライヴが終わる。全ての瞬間に喜びを感じます。


酒井佐知子 毎回、会場には演奏者、お客様、箱の人間、スタッフが集まるわけですが、その誰もに、当然のことながら「日常」っていうものがある。その、それぞれの日常(エネルギー)の延長線の上に、スペシャルな時間としての「ライヴ」が存在するんですよね。で、そのライヴで演奏者が放つエネルギー(日常の積み重ね)とお客様、会場側、スタッフ全員のエネルギーが一体となって見える瞬間が、いいライヴには必ずあります。決して、ぶつけ合うとかじゃなくって、流れるようにステージから客席、また客席からステージへ……とか。みんなの日常が交わって、集まったひとつの会場で魂が触れ合うかのような時間を紡ぎ出す光景は、本当に素晴らしいんですよね。そんな景色を会場中のみんなで味わえた時(4月のアニバーサリーライヴはまさに、そうでしたが)は本当に幸せを感じます。「SO-SO」は、ライヴ後にお客様から「ありがとうございました」ってお声をかけていただけたり、後日わざわざ箱への感謝のメールを頂いたりすることも多いんです。本当に、ありがたいことです。



―――あのときの山口洋リクオのライヴのオープニングアクトとして、「SO-SO」の近所に住むというシンガーソングライター笹倉慎介さんが数曲弾き語りをしていましたが、最後の曲が野球をテーマにした曲でしたね。「SO-SO」の近所の人たちは野球好きで野球チームを作っていて、先日は山口洋も参加したということですが、彼のプレーぶりはいかがでしたか?


酒井道啓 少年に戻っていましたね。 山口さんも含め全員が。


酒井佐知子 もうキラキラで眩しかったですよ〜。最近は試合以外にも合同練習にも遥々参加してくれてますので、プレーも今後がとても楽しみですね(笑)。ギターをバットに持ち替えた山口さんのユニホーム姿も、ホントかっこいいです。


山口洋 ……。


―――酒井夫妻は、ヒートウェイヴ『land of music "the Rising"』もご購入していただいたそうですが、感想をお願いします。山口さんからは、2年目に入ったライヴハウス「SO-SO」にメッセージを。


酒井道啓 ここまで、製作の過程を見せられる事のできるバンドってそういないと思います。 魂こもっている事に、何か信じられるのは、僕だけではないと思いますし、素晴らしい事だと思います。


酒井佐知子 心で心に訴えかけてくれた作品だと思います。スタイルとかじゃなく。本物がここにはあるなって。まだまだ、たくさんの方にこういう世界を知って欲しい。そして、この作品を前に、立ち止まり、何かを考え、前に進むことができたら素敵だと思います。


山口洋 とにかく、あんたたちはまっすぐに歩きんしゃい。俺も君たちも、多分それしかできんよ。

山口洋リクオ「THE HOBO JUNGLE TOUR 2008」、6月の札幌(6月27日)、函館(28日)、弘前(29日)の詳細はこちら。7月のスケジュールはこちらをご覧ください。