「あれだけの旅をしたから、知らなかったいろんな情景が頭の中にインプットされてる。それがライヴって場所で、どう湧いて出てくるのか、俺も愉しみにしてるんだ」山口洋


2008年1月17日、リハーサル・スタジオにて。撮影=山口洋


―――いよいよツアーが始まります。「歌は育っていく」という誰かの言葉を聞いたことがあります。『land of music』の曲は、2005年から2006年に山口さんの頭の中で書かれ、バンドのレコーディングで試され、ソロツアーで磨かれ(順番はその逆もあり)、再びレコーディング、阿蘇でのソロアルバムで歌われたのもあり、2007年春のアルバム・ツアーでバンドで生で演奏される(今回『land of music "the Rising"』で宮崎幸司監督によるライヴDVD、ライヴCDとしてほぼ完全収録)と、同じ曲でも時や局面によってさまざまな表情を見せていると思います。アルバム発売から約1年たってという今回のツアーも、リハーサルも最終日となり、歌の作者としてその「成長」をどう感じていますか?


山口洋 そうねぇ。曲ってもんは実にやっかいな存在でもあって、時間が経過すると、勝手に育ったり、死滅したりすんのね。稀にゾンビみたいに突然、復活する曲もあったりするんだけど。でも、「おー、これって名曲だぜ」なんて、思った曲は、大抵死滅するんだ、これが。
アイロニックなもんなんだよ。作者にとっては。文字通り、「リリース」した後は作者のものじゃないんだ。
そんな意味で『land of music』は俺自身のことなんて殆ど歌ってないからして、いつも客観的な立場で居られるのね。その時々で、見える風景も違えば、歌ってる人の立ち位置も変えることが出来る。だから飽きないんだ。でも、うちのバンドの人たちは(俺もだけど)本番になるまで、どう来るのか、分からないのよ。手のうちを見せないと云うか。完全なる逆パッケージ・ショーだから。だから、ツアーが始まらないと、本当のところは分からないね。
愉しみにしてるよ、多少の恐怖と共に。でもって、俺たちが興奮してることは、オーディエンスにとっても新鮮なはずなんだ。それを是非、確かめに来て欲しいね。あれだけの旅をしたから、知らなかったいろんな情景が頭の中にインプットされてる。それがライヴって場所で、どう湧いて出てくるのか、俺も愉しみにしてるんだ。


―――ステージに立ったときの直感的なものを大事にするというヒートウェイヴのライヴは、細部までフィックスされたパッケージ・ショーと対極にあると思いますが、山口さんがそういった「ライヴ観」を得たのは、どんなミュージシャンたちのライヴを観てきた影響があったんですか?


山口洋 うーん。最大の影響はヴァン・モリソンだろうね。彼はこう云ったんだよ。
「音楽とは奇蹟なんだ。それを起こせないのなら、俺はスタジオにもステージにも行かない」ってね。
稀に、俺もそれを起こせる時がある。どんな状況でも、そこに辿り着きたいんだ、俺は。


―――この特設サイトにまだ登場して頂いてない池畑潤二さんは寡黙で、近寄りがたいストイックなドラマーという印象があるのですが、渡辺圭一監督のドキュメンタリーDVDの中ではまさかの手さばきでドラマーにとっての必需品を手作りするシーンが収録されていますよね。車を運転する表情やその視線も開拓民のようで! 現在スタジオで一緒にバンド・リハーサル中の池畑さんはどんな感じなんですか?


山口洋 恐れ多くて、俺が語れることは何もないよ。常々云ってるけど、彼はバンドのエンジンであり、魂柱なんだ。飛沫が飛んでくるんだ。気を抜いてたら、置き去りにされる。彼が居ないバンドはシャーシだけなんだよ。展示品。
今日、何千回転でそのエンジンが廻るのか、いつレッドゾーンに入るのか、誰にも分からないんだよ。俺は前を向いてるしね。でも、少なくとも、そんなドラマーは俺が知る限り居ないね。柔から剛まで。何だか、何かの「道」みたいだけど、案外そうかも知れんってことをリハ中に教えられてる。