「彼(山口洋)とのセッションは、歌ものにしては決めごとが少なくて、すごく自由度が高い。緊張と開放のダイナミズム、振り幅の広さも魅力やね」リクオ

―――現在、山口洋とツアー「THE HOBO JUNGLE TOUR 2008」を行なっているシンガーソングライターのリクオさん。ツアーの様子は彼のサイト内「KIMAGURE DIARY」にも綴られていますが、ツアー後半の広島(4月29日)、大阪(5月1日※イベント)、近江八幡(5月2日)、名古屋(5月6日)、東京(5月15、16日)、さらに新たに追加された札幌(6月27日)、函館(6月28日)、弘前(6月29日)を前に、当ページで特別にリクオさんにインタビューしてみました。
入間(4月5日)でのライヴで、山口洋はステージ上から「俺たちは“ギターを持った渡り鳥”」と言っていました。ツアータイトルにある「HOBO」という言葉通り、リクオさんは全国を廻り続け、そして、それが山口洋がソロツアーを始める大きなきっかけとなっています。リクオさんが街から街へ、コンサートツアーを始めるようになったのはどんなきっかけですか? そして、数年前、山口洋からソロツアーについて助言を求められたとき、どんなふうにお答えになったのですか?
リクオ 自分が今のような年間百数十本に及ぶツアー暮らしをするようになったのは、メジャーレコード会社との契約が切れて、デビュー時からお世話になってた音楽事務所にもいづらくなって、辞めてしまったことが一つのきっかけやね。給料ももらえなくなったし、どないしようかなと。
その頃は、鍵盤奏者として他のアーティストのレコーディングへの参加や、ツアーサポートが自分の生活のかなりの部分を支えてたんやけど、やっぱり、自分で曲書いて、アルバム作って、自分のツアーをやるっていう活動が一番やりたかった。でも当時の事務所に所属してたころは、ある程度メジャーのシステムの中で活動していて、オリコンチャートの右ページに入るくらいの数字の実績がないと、採算が合わないから自分のツアーはなかなか組んでもらえない状況。
それやったら、事務所も辞めて、ある意味で身軽になったんやから、自力でツアー組んで一人で回ったら経費もかからんでええやんってことやね。それでアマチュアの頃みたいに自分でお店に電話してツアーを組んで、一人で各地を回るようになったわけ。
今はサポートしてくれるスタッフもいてくれて、各地のネットワークもかなりできたけど、基本姿勢は一人でツアーをやりだした10年前とそんなに変わってない。自分がラッキーやったんは、若い頃から自分より一回り上の世代の日本のシンガーソングライターやブルーズマン、例えば友部正人さん、有山じゅんじさん、高田渡さん、西岡恭蔵さん、憂歌団、梅津和時さん、石田長生さんといった諸先輩方との付き合いがあって、彼らがメジャー資本によっかからず、独自で草の根のネットワークを築きながらツアー中心の活動をしているのを真近で見て来て、そういうやり方、選択肢があることを知ってたってことやね。
元々自分はCDデビューする前に、有山じゅんじさんに付いて地方の小さいお店を回るツアーを体験してたから、また原点に戻ったらええやんという思いもあった気がする。
山口が今みたいなソロツアーを始めるのは必然というか、ごく自然な流れやと思う。
彼に助言をした記憶はないけど、自分が回った各地のライブスポットやイベント主催者をまとめたリストは渡したよ。一応各お店の解説説明つきでね。ここのマスターの酒癖悪いから気をつけろ、とか書いてた気がする。
―――今回の「山口洋&リクオ」ツアーは、前半と後半に分かれてる、いわゆる対バン方式ではなく、ほぼ全編、ふたりが同時にステージ上にいて、お互いの曲を一緒に演奏していますね。山口洋のギターの伴奏、また、彼の曲をピアノで伴奏するのはいかがですか?
リクオ 自分は“響き”と“間”を大切にする演奏者が好きなんやけど、山口はまさにそのタイブ。
彼とのセッションは、歌ものにしては決めごとが少なくて、すごく自由度が高い。緊張と開放のダイナミズム、振り幅の広さも魅力やね。
お互いに、その場のいろんな要素との共鳴を楽しんでるから一緒に演奏する度にインスピレーションが湧くんやね。とにかく毎回違った演奏になるから飽きひんよ。一夜一会のライブって感じやね。
―――入間で披露されたリクオさんボーカルの曲の中で、ゲンズブールから明石家さんままで、古今東西の名言がたくさん引用された曲を初めて聴かせて頂いたのですが、その中でも最後の方にあった、「戦争に反対する唯一の手段は各自の生活を美しくして、それに執着することである」という吉田健一さんの言葉を引用したフレーズにビクッと撃たれました。ブルース・リーからたこ八郎の言葉まで含めてあの歌の中にある全部の言葉にきっとリクオさんにとっての「真理」が詰まっているんですよね。あの曲のタイトルや作った経緯を教えてください。
リクオ あれは「パラダイス」っていうタイトルの曲。
曲を作った経緯はもうあんまり覚えてないなあ。「真理」が詰まってるっていうのは大げさやね。こんな考え方や発想もあるで、っていう感じで、聴いてくれる人の心と体が柔らかくなったらいいなあとは思う。
―――2007年12月に続く、2回目の山口洋とのツアー。これから後半戦ですが、一緒に旅やステージを共にすることによって感じた山口洋の魅力や、ここは直してほしいというところを教えてください。
リクオ 山口は、外に対してだけでなく、内なる自分自身に対しても抗ってる感じが、一種の色気になってると思う。
最近、かっこつけたりやせ我慢する男って減ってるやん。音楽も“等身大”とか“自然体”っていうキーワードがあてはまるもんが多いでしょ? そういう音楽や生き方が嫌いなわけでも否定する気もないんやけど、抱えてるもんが少なそうであんまり多くを語れないんやね。その点、山口洋は語れる男やし、語れる音楽をやってると思う。彼の音楽と ステージパフォーマンスを体験すると、山口洋という人間に興味がわくんやね。矛盾やアンビバレンスな部分、葛藤が垣間見えて、想像力を刺激される。客に幻想を与えるタイプやと思う。それが時には本人の首を締めることもあると思うけど。
山口の魅力っていうのは、諸刃の剣みたいなとこがあって、それがまた危うい感じで語れるというか、面白いねんな。
オレが興味持つ人って、つっこみどころが多いっていう共通点があるんやけど、山口もそういうタイプやねん。だから山口には、オレの愛あるつっこみをこれからも受け取めてほしいなあと。
彼の直してほしいとこねえ。君が思ってることをオレに言わそうとしてるんちゃう?
ギャグのセンスが今イチで時々客が苦笑してたりするけど、それを直してほしいっつう感じではないしなあ。どんどんしょうもないこと言うたらええやんって思うし。ほんまに直してほしいことは本人に直で伝えるよ。
―――リクオさんのサイトによると6月25日にニューシングルが発売になるようですが、インタビューの最後にこのシングルを紹介してください。
リクオ 「アイノウタ」っていうタイトルで、8月発売予定のフルアルバムからの先行シングルなんやけど、今回の山口とのツアーでもレパートリーに入ってる。
カップリングでは曽我部恵一君の曲「恋人達のロック」をカヴァーしてる。
シングルもそうやけど、8月に出るフルアルバムは、ここ10年くらいの自分の音楽変遷をまとめたような感じで、自分の節目になるような作品やと思う。このサイトを見ている人にも音が届いたら嬉しいです。
取りあえず皆さんとツアーで会うのを楽しみにしてます。