「2度と同じステージにはならない、さまざまな要素との共鳴によって成り立っているライヴであることを確認してもらう上でも、(東京吉祥寺では)2日間やることの意味があるし、余裕のある人は2日間来てくれたら対比が面白いと思うよ」リクオ


撮影=宮本佳子 協力=広島音楽本


―――山口洋&リクオ「THE HOBO JUNGLE TOUR 2008」の後半シリーズの初戦、広島・ヲルガン座でのライヴを終えたばかりのふたりにインタビューしてみました。
ヲルガン座という会場は山口洋ヒートウェイヴにとってはこれまで未踏の場所でしたよね。会場のセレクトは、〈年間百数十本に及ぶツアー暮らし〉をしているリクオさんの担当だったんですか? ライヴはいかがでしたか?


山口洋 会場は広島の弟分、ボンバー石井のセレクト。できたばかりのスペースなんだけど、スタッフが全員女性で、当たり前の話なんだけど、女性が店作りに関わると、細やかなところまで気が届くんだなぁ、と。がさつさがまったくないのよ。これからいろんな人が出入りして、どんな文化が生まれていくのか、楽しみだね。食べること、音楽をすること、語り合うこと、それらがフラットに楽しめる素晴らしい場所だと思うよ。ライヴについてはリクオ先生に譲ろう。


リクオ お店のスタッフとライヴをコーディネイトしてくれたボンバーのもとに集まったスタッフが女性ばっかりでね、みんな愛想よくて、いい笑顔をくれてねえ、そうするとやっぱり開演前からテンション上がるよ。お店はオープンしてまだ半年も経ってないはずなんやけど、もうすでに味わいとかニオイがあるねん。店主のいずみさんは、アコーディオン奏者でもあるそうで、なんかナゾな魅力のある人やったよ。オレはヲルガン座みたいな、お店の人間の顔がちゃんと見えて、コミュニケートできる場所で演奏したいねんな。
集まったお客さんもオレ等演奏者もヲルガン座の雰囲気に左右されながらライヴを楽しめたと思うよ。お客さんはみんなええ顔してくれてたなあ。山口がステージでいきなり一緒にやったことない曲を演りだしてね。オレはステージ上で彼からコード聞きながら演奏したんよ。おいおいって思ったけど、なんとかなったし、えらい盛り上がったよ。こういうハプニングが起きるような自由な空気が、この日の会場にあったってことやね。



―――前回のリクオさんのインタビューで、リクオさんが山口洋を評して、〈お互いに、その場のいろんな要素との共鳴を楽しんでるから一緒に演奏する度にインスピレーションが湧くんやね。とにかく毎回違った演奏になるから飽きひんよ。一夜一会のライブって感じやね〉と話してましたが、山口さんからするとリクオさんとの演奏はどんな印象ですか? また、〈つっこみどころが多い〉ということも言われていますが、山口さんがリクオさんに付けたい注文があるとしたらどんなところですか?


山口洋 ひひ。リクオはね、ステージで飲みすぎです。酔いすぎると、指がもつれてくるからすぐ分かります。ヲルガン座では、ピアノのセッティングの都合で、リクオは背中しか見えなかったのね。俺たち、アイコンタクトで、曲のサイズを決めてきたから、見えないと崩れるんだわ、まだ。そんな意味では、まだまだ可能性はたっぷりあるから、楽しみにしてるよ。注文ねぇ。ライヴが終わればどんだけ飲んでも、ちゃんとホテルに連れて帰ってあげるから、ステージじゃ、ちょっと控えなさい(懇願)。


リクオ 気いつけるわ。



―――出演が別々の普通の対バン形式ではない、まさに「山口洋リクオ」のツアー。山口洋の曲では山口洋がヴォーカル+ギターでリクオさんがピアノで伴奏、リクオさんの曲ではリクオさんがヴォーカル+ピアノで山口さんがギターで伴奏。そんなライヴの中でお互いが特に思い入れのある相手の曲を教えてください。


リクオ 1曲にしぼるのは難しいなあ。「満月の夕」は、3年前にソウル・フラワー・ユニオンが企画した神戸長田神社のイベントで山口と6年振りに再会したときに、2人でセッションした曲でね。この時にお互いが得た感触が今回のツアーに繋がってると思うよ。
あと、「君を連れてゆく」佐野元春さんのカヴァーやけど、山口が歌う必然性を凄く感じるし、昔からこの曲を一緒に演奏してたような気がしてくんねんな。


山口洋 リクオ「ぬくもり」はね、「抱き寄せたぬくもり」じゃなくて「抱き寄せられなかったぬくもり」だったら、100倍好きだって、昨日リクオに話した。


リクオ そこ肝の歌詞やで。ストイックな山口らしい感想やね。
「信じてるのは愛だとか恋じゃない。言葉よりも抱き寄せたぬくもり」っていうつながりのフレーズなんやけど、ある女性から「あんまりな歌詞や!」って言われたこともあるよ。



―――大阪(5月1日※イベント)、近江八幡(5月2日)、名古屋(5月6日)ゴールデンウィーク中のライヴを終えると、その次は2日間連続公演となる5月15日、16日の東京吉祥寺・Star Pine's Cafe山口洋ヒートウェイヴにとっても、リクオさんにとっても東京でのある意味ホームグラウンドな会場ですよね。さらなる追加公演が札幌、函館、弘前で決まったとはいえ、各地でのツアーを経験してからのホームグラウンドでの2日間。何か特別に考えていることはありますか?


リクオ まず、客席には椅子だけじゃなくテーブルも置く予定。テーブルを置くってゆうのが結構重要で、飲み食いできる状態で、リラックスしてライヴを楽しんでほしいんやね。で、ステージは2部制にして休憩いれます。1ステージ目が終わったら、2階のトイレに行って用を足して、ぜひドリンクを追加オーダーしてください。
この日はスターパインズカフェの方で特別メニューとして、山口とオレの2人にちなんだカクテルを2種類用意してくれるそう。こういう風にお店側もライヴに参加してくれてる感じが嬉しいね。ライヴを観るっていうよりは、ライヴに参加するっていう気分で来てほしいな。
2日間の演奏メニューは当然変わるし、ステージ上で、その場の空気によって、演奏曲や曲順も変わると思うよ。2度と同じステージにはならない、さまざまな要素との共鳴によって成り立っているライヴであることを確認してもらう上でも、2日間やることの意味があるし、余裕のある人は2日間来てくれたら対比が面白いと思うよ。


山口洋 「食べる」、「聴く」、「参加」するってことが、とってもフツーなことだって、伝えたいといつも思ってる。この前のトリオの時、地方ではいい感じに「生音」でお客さんが食事しながら楽しめる感じだったんだけど、東京のスタパじゃ、パツンパツンでそれどころじゃなかったっちゅー反省を踏まえて、今回はみんなが楽しめるようにしたいから2 days。仕事終わって、お腹すかして来んしゃい。終わって、飲みに行かんでも、大丈夫だよ。このツアー、南は八重山まで行くけど、今年はこれで終わりやから、是非、来んしゃい。俺らも、いい感じに練れてきたよ。


リクオ 都市部と地方でやるライヴって、やっぱり違いを感じることが多いねん。地方に行くと、山口やオレのことをよく知らない、いわゆるファンという立場ではないお客さんが観に来てくれる割合が増える。で、会場の規模もより小さくなるから、客席が近くて、ステージも低かったり、客席と段差がなかったりする。スターとファンみたいな関係ではいられなくなるねん。まあ、オレ元々スターちゃうけどね。スターとファンの関係性を否定する気は全くないんやけど、ただそういう場合、演る側とお客さんが、与える側と与えられる側みたいな関係で固まったり、ファンが抱くイメージに演奏者が縛られて、ある種の閉塞感が生まれる場合が多い気がする。
多分、オレと山口のツアーの中での重要なテーマの一つは、演奏者もお客さんもある種の関係性からもっと自由にくだけて、その場で一緒に何かを生み出してゆく、コラボレートを楽しむ、アホな人間同士になる、そういう空間をいかにして作り出してゆくかということやと思う。このテーマをオレと山口だけでなく、来てくれるお客さんも共有してくれたら、さらに面白い化学反応が起きると思うなあ。

山口洋リクオ
「THE HOBO JUNGLE TOUR 2008」スケジュール詳細


※会場では、ヒートウェイヴ『land of music "the Rising"』をはじめ、山口洋ヒートウェイヴリクオさんのCD、グッズなどを販売しています。