「いつの頃からか音楽は空気のようなものであり、生活に必要不可欠なものになっていました。それで生涯、音楽を道づれに暮らせたらどんなに幸せだろうかと常々考えておりまして、その答えが1995年、店という形になったわけであります」カフェミルトン・マスター

撮影=山口洋

―――「故郷」がたくさんあるのは悪いことではない。しかし、宮城県白石市にあるカフェミルトンを山口洋は最近何度訪れたことか。2007年12月16日2008年3月22、23日8月30日31日、そして新たに発表された12月6日(土)、7日(日)をあわせれば1年間で7回のライヴ。タイトルの「milton again 2days」というのは、あまりにも過小告知である。「milton frequenter 2days」(ミルトンにたびたび行く人の2日間)とでもタイトルを変えるべきである。なぜそんなに足を運ぶのか、その理由を知るには行くしかない。でもその前にインタビューをしよう。
今年9月22日、同じくカフェミルトンでライヴを行なったリクオさんは彼の日記で美しい文章を書いている。一部を抜粋します。〈ミルトンは今年の3月山口洋と一緒に訪れたのが最初。ママとマスターと知り合ってまだ1年も経っていないのに、もう長い付き合いのような感じ。ミルトンは自分にとって“襟を開きつつ、襟を正す場所”という感じ。すごく居心地がよくってリラックスできる場所であると同時に、ライブ中は表現者にとって必要な緊張感と集中力を与えてくれる空間でもあるのだ。この場所には不純なものがない。ミルトンでは開店から10数年の間ひたすら、音楽文化と人の繋がりを愛し、守り、拡げてゆくという美しい試みが続けられてきたのだろう。その積み重ねがこの日の理想的な共鳴空間に繋がったに違いない〉。
では、山口洋に質問。自分の住処からアクセスに便利な場所ではないはずの白石市・カフェミルトン。ご自身も含め、この場を愛するミュージシャンが多いのはなぜでしょう?
山口洋 俺ね、この場所に関しては、いろんな人が実際に足を運んでそれぞれがそれぞれに「何か」を受け取るのがいいと思うんだ。本当の意味での「神」が人間の数だけ居るように、ミルトンの音楽の神様は足を運んだ人の数だけあると、俺は思ってるから。
日本各地で、「行ってみたいんです、ミルトン」って云われた。だから「行けばいいじゃん」って応えた。そこで実際に行くかどうか、が分かれ目だと思うんだよ。俺。どうして、人口数万人の街のカフェにミュージシャンが惹かれるかって、多分それぞれの「音楽の神様」に会えるからだと思うよ。
―――ミルトンの三浦マスターに第31回のインタビューに続いての質問です。ブラジル料理と音楽の店として白石でカフェミルトンをスタートさせたきっかけと、音楽への想いを教えてください。
ミルトン・マスター 当店の始まりや我々の愛する音楽等については、これまでにも随分聞かれてその度立ち止まって回想を重ねて参りました。先ず、ブラジルの音楽との出会いは……。それは強烈なものがありましたね。時は80年代、たまたまめぐり合ったブラジルの音楽。そこには人生の喜怒哀楽を独自のリズムで表現し、激しく時にせつなく揺れながら共感の喜びに溢れた世界が存在していました。日本から最も遠い地球の裏側の音楽と出会い、その広大な大地に思いを馳せ、旅し、身近になっていったのでした。それから時は流れても、我々はいつでも好きな音楽を持ち合わせていました。いつの頃からか音楽は空気のようなものであり、生活に必要不可欠なものになっていました。それで生涯、音楽を道づれに暮らせたらどんなに幸せだろうかと常々考えておりまして、その答えが1995年、店という形になったわけであります。
来年5月に14周年を迎えるわけですが、自分達で作った自分達の店というのは変幻自在でありまして、いつも気ままに自由に音楽を愛することが出来、棲家としては最高の人生のハコだと考えています。音楽の選択肢も極めて自由がキーワード。その証は、店に来た時にでも貼ってあるポスターをご覧ください。
店のオープンと継続は簡単なものではありませんでした。しかし、世界中どこにでも人が集まる店が存在するという事実に大きく励まされてやっと漕ぎつけた「カフェミルトン」は、私どもの宝物なのであります。
―――山口洋の音楽のルーツはたぶんロックンロールとアイルランドにあり、ブラジルとは接点がないと思うのですが、山口洋の音楽に違和感はありませんでしたか? 山口洋について率直に、人間としてでも音楽についてでもお聞かせください。
ミルトン・マスター 音楽への想い……これは言い換えれば共感と共有であります。音楽の送り手と受け手がともに喜びを感じ合えることは素晴らしき人間の特権だと思うのです。手前味噌になりますがブラジル音楽にはそんなヴァイブレーションを持った音楽が数多くあると思います。山口洋の音楽については、彼にどんなルーツがあろうと、彼のキャリアで書き記された音楽がカフェミルトンの空間を心地よく震わせました。回を重ねるごとに、沢山のファンが全国からご近所から押し寄せるようになりました。私は遅れて来た熱烈な山口洋の音楽ファンであります。私は例えば外国を旅していてムショウに日本語の歌を聴きたくなったら、迷わず彼のCDを聴くことでしょう。
山口洋 俺ね。絶対にここに行かなかったら書かなかったであろうメロディーがあんの。俺が書いたって云うより、ミルトンから何かをもらってんだろうねぇ。不思議だねぇ。この前、マスターにも聞いてもらったよ。
[rakuten:neowing-r:10067943:image] ―――2005年には沢知恵さん、大塚まさじさん、城戸夕果さん、新良幸人さんら音楽的出自もバラバラなミュージシャンによって、オムニバスアルバム『カフェミルトンへのサウダージ』というアルバムが作られました。また沖縄では、昨年に続いて12月に「カフェミルトンへのサウダージ 2008」というイベントが開催され、山口洋&リクオも出演します。アルバム、イベントが生まれたきっかけを教えてください。
ミルトン・マスター 「カフェミルトン開店10周年を記念してCDを作ろうじゃないか」という話は酒を飲みながら卓をかこんで、気のおけない仲間たちと自然に沸きあがった話でして、その種子の発芽には勢いがありました。80年代にレコード会社を仕事として体験している私どもにとっては、まったく夢ではない!と話は進み具体的に展開していきました。しかしここでもっとも重要な事はこの壮大な企画に「うん! やろう」と快く引き受けてくれたミルトン常連の15組のミュージシャンの存在があったことだと思うのです。参加ミュージシャン筆頭と自ら名のりを上げて、皆のハートに火を付けてくれた桑山哲也氏の存在も多大なものでありました。
音楽的素地がちがうミュージシャンが多数揃うオムニバスアルバムの形態はなんといっても面白く、今の時代に痛快であり、根底にあるものがしっかりしていれば全くノープロブレムでして、おもちゃ箱をひっくり返したようなアルバムを思うと妙に童心が騒ぐのでありました。
そして完成したCDは、遠くまで旅をしました。沖縄の野田隆司氏が新聞に素晴らしいレヴューを書いてくれて、このコンサートを桜坂劇場で開催して頂ける事を聞いた時には泣けました。
「沖縄にミルトンマスターとママを呼んでイヴェントをやろう!」という話は、那覇の桜坂界隈で、新良幸人下地勇のご両人と野田さんとで、飲んでいた時に自然に沸きあがった話だと彼らに聞いています。
1枚の銀盤が繋げてくれた絆の架け橋とでも言いましょうか、日本の南と北で同じ音楽への愛情を持った人々と空気が繋がっている!と実感できるのであります。
カフェミルトンへのサウダージ オキナワ2008
http://www.sakura-zaka.com/asylum2008/prog2.html#a111502
11月15日(土) 沖縄県那覇市桜坂劇場ホールA
開場/開演=17時45分/開演18時30分
チケット料金=前売3,500円/当日4,000円(入場時別途300円の1ドリンクオーダーが必要)
出演=新良幸人下地勇×山口洋リクオ
ライヴペインティング=沢田としき
問=桜坂劇場(TEL 098-860-9555)
山口洋 milton again 2days
12月6日(土)、7日(日) 宮城県白石市・Cafe Milton (宮城県白石市八幡町6-18-1)
12月6日:開場/開演=17時30分/開演19時 ミルトン12月のプレート&1ドリンク(当日要2,000円)
12月7日:開場/開演=17時/18時30分 1フード or 1ドリンク(当日要オーダー500円〜)
チケット料金=8,000円(2days ticket)/4,000円(1day ticket)
チケット=カフェミルトン店頭、電話にて販売中
問=Cafe Milton(TEL 0224-26-1436)