「ヒートウェイヴの曲、演奏、うたにある大きな意味でのダイナミクスを、音楽/映像作品としても実現できた」宮崎幸司


2007年4月22日、東京LIQUIDROOM ebisuにて。撮影=岩佐篤樹


―――宮崎さんは前回登場のアートディレクター渡辺太朗さんと共に、「STILL BURNING」のビデオクリップ(2004年)で、ヒートウェイヴと初めて仕事をしたんですよね?
そして「フリージア」のビデオクリップを監督し、『land of music "the Rising"』に内包されるライヴDVD『"land of music"in Action』へと続いたわけですよね。ヒートウェイヴと初めて会った時の彼らの印象をお聞かせください。


宮崎幸司 僕がヒートウェイヴの存在を意識したのは、「mood.films」の前身の映像チーム「Restricted.」として、「PoST」主催の映像と音楽のイベントに参加したのがきっかけです。そこではじめて山口さんのギター・プレイを生で聴いてぶっとばされまして、終演後にそのことを伝えに行ったのがファースト・コンタクトですね。そのイベントでのパフォーマンスを気に入っていただけたのかな(詳細を尋ねた訳ではないのでわかりませんが)、それから1年くらい経った頃「STILL BURNING」ビデオクリップ編集のオファーをいただきました。当初、山口さん自ら編集を行うという案もあったらしいのですが、自分が映っている映像を自分で扱うというのがどうにもやりづらいという理由もあり、僕らに白羽の矢が立ったと。たしかそんな経緯だったと思います。「STILL BURNING」の特徴といえる、生の演奏とエレクトロニクスが有機的に絡まった強烈なドライブ感を出す為に、エフェクティブな要素を後から加えてゆきました。少々荒っぽいつくりですがヒートウェイヴ再始動時の勢いを表せたかなと思っています。
「フリージア」のビデオクリップは、越智望さん撮影のドキュメンタリー素材をまとめたものです。素材自体に『land of music』制作の長い時間の経過と、そこにあった希望、苦悩、喜びといったいくつもの感情が刻まれていて、それは「フリージア」という楽曲のテーマそのものと感じたので、編集もそれに沿った形、歌のレコーディング風景を現在として過去へのフラッシュバックを挟んでゆくという構成をとっています。そこにあるエモーションをストレートに伝えたかったのでつなぎも極力シンプルなものにしました。


―――2007年4月のツアー"land of music"での宮崎さん、渡辺太朗さん、吉原江輔さんの映像チーム「mood films.」ヒートウェイヴとのステージ上での映像コラボレーション。これは、演奏するメンバーがスクリーンにアップで映されているといったようなものではなく、音楽にあわせて印象的な風景や刺激的なタイポグラフィが流れるといった、観客にとって非常に刺激的な試みでした。音楽と映像とのあの組み合わせは、今回ライヴDVDに収録された東京公演では会場でライヴで作りだしていたんですよね?


宮崎幸司 そうですね。やると決まった時から、まずそれぞれの楽曲のテーマに沿った映像の準備をはじめました。制作の過程でバンド側から「この曲はこうして欲しい」的な要求はまったくありませんでした。逆に、僕らの側で自由に曲を解釈して「お前の『land of music』を表現してくれ」という依頼でした。ライヴで映像を使うというのは、難しい側面もありますよね。オーディエンスそれぞれの頭の中に浮かぶイメージを限定せず、触媒となるようなものでありたい。ということを念頭に置いて制作しました。ライヴ全体の流れを考慮して、制作したものの、使用しなかった映像もあります。アンコールでは、当日その場で急遽映像をつけることにした曲もありました。「STILL BURNING」のクリップの素材を使ったりもしましたし、自分たちにとっても数年間にわたるヒートウェイヴとの仕事の総決算的な意味があったので、それは気合いが入りましたよ。
全体としては、ヒートウェイヴは演奏の自由度が非常に高く、尺もタイミングもニュアンスもその時になってみないとわからないバンドなので、鳴ってる音に対応しつつ、映像としても始まりと終わりを含めた展開を作るというのが苦労した部分ですね。


―――この東京公演を108分間、ほぼフルで収録したライヴDVD『"land of music"in Action』も宮崎さんが監督しましたが、見どころを教えてください。


宮崎幸司 当日あの場に居た方たちには同意していただけると思うのですが、リキッドルームでのライヴは本当に素晴らしいものでしたよね。賛同者を募るところからはじまったニューアルバムプロジェクトの一つの区切りとしてのツアー最終日、ファンの期待感で会場の雰囲気も特別なものになっていたし、なによりそこで鳴らされたヒートウェイヴの音楽が本当に素晴らしかった。その瞬間を録音、映像で残せたというのは本当に意義のあることだったと思います。
最高のライヴが行われて、最高のスタッフによる録音と撮影ができた。さて。ということろからまた新たな旅が始まった訳です。如何にすればこの熱を作品として結晶化できるのか? これはなかなか言葉にすることが難しいのですが、収録された映像を繰り返し観て、録音された音をひたすら聴く。ということからひとつひとつ掴んでいきました。時間はかかりましたが、曲に応じたやり方を見つける為に必要なものでした。ヒートウェイヴのメンバーに編集の途中経過を観てもらう際、シーンによっては普通ここまでやらないだろうという領域にまで踏み込んでいたのでいったいどんな反応が返ってくるか想像つかなかったのですが、山口さん、細海魚さんから、「この映像になら音も再度ミックス〜マスタリングをしたい」と提案され、自分たちのやってることは間違ってなかったんだなと思えて、本当に嬉しかったです。
そしてあがってきた音に触発されてまた映像を修正したりなどの数度のやりとりを経て、最終的にはヒートウェイヴの曲、演奏、うたにある大きな意味でのダイナミクスを、音楽/映像作品としても実現できたのではないかと思っています。ここまでの振れ幅と起伏があるライブビデオはなかなか無いのでは?と思います。映像のトーンから曲間の長さまで、隅々まで気をつかった入魂の作品です。
ライブビデオって好きなアーティストのものでも一度観たらもういいかなって思うケースも多かったりしますが、この『"land of music" in Action』は繰り返し観たくなるような作品になって、それも自分にとっては嬉しいところです。


宮崎幸司がディレクターを務めたヒートウェイヴ「フリージア」ビデオクリップ(2006年)