「『これを撮らなきゃ何を撮るんだ』って。そんな風に思うことってあまりないし、思ったら絶対撮らなきゃいけないと思う」越智望


2005年11月17日、越智望とヒートウェイヴ、久しぶりの再会となった撮影。撮影=越智望


―――アルバム『land of music』レコーディングの過程を撮り続けていた映像ディレクター、越智望。今回のボックスセット『land of music "the Rising"』ではその膨大な映像が渡辺圭一監督のもと、ドキュメンタリーDVD「Searching for "land of music"」として結実しました。
アルバムプロジェクトが映像で記録されていったのは、山口洋からの発案に越智さんが熱く応えていった積み重ねだと伺っています。最初はどんな想いでスタートしたんですか?


越智望 そもそもは忘れもしない2005年の10月24日。有楽町のガード下で飲んでいたらマネージャーの堀田氏から電話があり、「今度、ニューアルバムのレコーディングを始めるから、それをドキュメントとして記録してくれないか」とのことでした。ヒートウェイヴとは2001年の活動停止以来、交流がなかったので随分久しぶりの連絡でした。で、「その前に一度、バンドの写真を撮ってくれ」、と。
そもそも僕とヒートウェイヴとの関係は、僕が彼らのファンで、勝手に写真や動画を撮影していた時期がありました。でも、この電話をもらった当時、僕は会社員で、写真くらいなら撮れるけど長期間のレコーディング取材は難しいな、と思っていました。
いやに天気が良かったその年の11月17日に「トトロの森」で撮影をした後、そのまま水炊き屋でヒートウェイヴのミーティングがあり、なぜかそこにも参加しました。そこでニューアルバムプロジェクトの原型となる話を聞きました。ヒートウェイヴはそれまでも、蔵王の廃校に機材を持ち込んでレコーディングをしたり、いろんなユニークな活動をしていたけど、本当にネタがつきないバンドだなぁと、聞いていて興奮しました。当たり前の話なのに新しい。山口氏に言われるまでもなく、これは撮りたいなぁと思いました。その夜、駐車場の車には、偶然、バンド所有のビデオカメラがあったので、それを取りに戻って撮影を始めました。だからこの日が『land of music』撮影の開始です。「撮るしかない」という想いでした。「これを撮らなきゃ何を撮るんだ」って。そんな風に思うことってあまりないし、思ったら絶対撮らなきゃいけないと思う。会社員だったこととか、その後、会社を辞めたこととか、予算がまったくなかったこととか、機材がなかったこととか、いろんな不安もありましたが、そんなことも今振り返ると大きな問題ではなかったように思います。


―――2005年12月25日の山口洋の日記に〈きっと来年の今頃にはアルバムに合わせて、かつてなかったドキュメントが完成してることでしょう〉という記述があります。アルバム完成までの長い道のりの中で、特に越智さんに印象に残っているエピソードを教えてください。


越智望 いろんなことが印象に残っています。撮影した内容も、ミーティングからレコーディング、ツアー、ミックス、マスタリング、その他メンバーのちょっとした日常風景などいろいろありました。撮影したテープは最終的に256本(約200時間分)だっけかな? 編集もずいぶん時間がかかりました。その間に出会った人やお世話になった人の数は数え切れないし、お礼の言いようもありません。なので、印象に残ったことはいろいろありますが、あえて最近のことを。
今回、『land of music "the Rising"』は2枚のDVD(越智望撮影、渡辺圭一監督のドキュメンタリーDVDと、宮崎幸司監督によるライヴDVD)と2枚のライヴCDと日記本が詰まったボックスセットになったのですが、最終的にこういう形態になるまでには、メンバー、スタッフ関係者の間にメーリング・リストで日に何通もの濃いメールが行き交いました。いろんな分野のスペシャリストたちが、意見を忌憚なくやりとりし、段々と「チーム」になっていった、僕はそんな風に感じています。山口氏が成り立ちを詳しく語っていたけど、悪く言えば成り行き。でも本当に幸福な連鎖で必然的に「the Rising」という作品に結実したと思っています。
たくさんやりとりされたメールの中に誰かが書いていたんだけど、「誰かの仕事が次の人間に影響を与えてつながってゆく。そんなことって滅多にない」。本当にそう思います。


―――渡辺圭一監督のインタビューでも編集作業の様子、その斬新な方法が語られていますが、『land of music』完成までの長い期間、ヒートウェイヴに密着し、撮影してきた越智望さんから、完成したドキュメンタリーDVD「Searching for "land of music"」の感想、見どころをお願いします。


越智望 『the Rising』という形で、今回の作品集に結実するには本当に即興演奏のような幸福な奇跡があったと思います。すれすれの危うさがあったけど必然。完成にこぎつけたのは撮影や編集でお世話になった多くの方々のお陰でもあるし、作品を手に取って、観て、いろんなことを感じてくれる人がいて、さらに面白い次元に行けるのだと思います。
そんな中で「Searching for "land of music"」はこの作品集の中で、先陣を切る即興演奏第一弾。……でも言うことは何もないっす。どうぞ好き勝手に感じ入ってもらえたら嬉しいです。