「バンドでジャムってる感覚で作業した。どこに着地するか誰にもわからないワクワク感が好きだし、そういう風に仕上がったと思ってる」渡辺圭一


2007年4月22日、東京LIQUIDROOM ebisuにて。撮影=岩佐篤樹


―――ヒートウェイヴのベーシストとして活躍する一方、アルバム『LONG WAY FOR NOTHING』(2004年)、『land of music』(2007年)のジャケット・デザイン、DVD『OFFICIAL BOOTLEG』(2004年)、『TOUR OF "LOVE"』(2005年)の映像編集を手がけるなど、ビジュアル部門も担当する渡辺圭一。
今回の『land of music "the Rising"』ではドキュメンタリーDVD「Seaching for "land of music"」をディレクションしています。アルバム『land of music』が完成するまでの約1年半の道のりを68分間の映像にまとめたこの作品。越智望さんが密着して撮影していた映像の他にも、メンバー各自の作業風景をセルフ撮りしていたものも含めると素材は膨大なものだったんですよね? 自分たちのレコーディングのドキュメンタリーということで、それらの映像をセレクトする際に、圭一さんの頭の中には構成的なものができていたんですか?


渡辺圭一 2005年冬に都内のクソまずい鶏鍋屋でアルバムプロジェクトが話し合われたんだけど……。ホントにクソまずかった。店員がくそマズかったね(笑)。そんな所で俺たちメンバーとスタッフの合計7人くらいで、あぁじゃない、こうじゃないってスタートして……。プロジェクトの輪郭がようやく見えてきた頃、満場一致でみんなの頭に浮かんだのは、「この店には二度と来ない」……ウソ(笑)。「プロジェクトがうまくいかんかったら、この店のせいだっ!」っていうくらいで……。まぁ、どーでもいーんですがね。
そんなんで、プロジェクトの道のりの記録は最初、オッチーくん(越智望)がドキュメンタリーを制作するってことになって、彼がカメラ抱えて1年間俺たちを密着する事になった。リハやレコーディングはもちろん、可能な限り彼はどこにでも機材を抱えて現れ、メラメラと撮りまくってた。オッチーくんが行けない時には、山口某(笑)や俺にも、個人の作業風景とかを三脚で撮り続けるように言われた。
そんなんが1年分あるんだから、そりゃ膨大な記録ですよ。その膨大な記録と戦ってたオッチーくんが残念ながら編集作業の段階で目が回りはじめた。この映像をお蔵入りさせるか、それとも短期間で再生させるか。俺に「どうにかならんか?」となった。えーえーやりますとも! やらせて頂きますとも! オッチーくんのメラメラ映像集を見事にまとめあげて、世に出そうじゃーありませんか!……となったわけだけど、当初自信はまったくなかった。映像の仕事にはしばらく携わってなかったし、何よりあの膨大な記録をチェックするのが恐ろしかったし。
幸い、オッチーくんは全部の記録をカテゴリー分けしていて、必要な映像を伝えれば図書館みたいにすぐ引き出せるという画期的な検索システムを作っていた。それに初めて映像編集にトライした『OFFICIAL BOOTLEG』の時みたいに、俺が編集ソフトと一からにらめっこする必要もないしね。オッチーくんがソフトを駆使し、俺はただ後ろから画面を見たり、見なかったり、耳を澄ましているだけで良かったから、作業自体は以前より数段やりやすかった。
プロット的なものは一切ないし、時間経過とともに欲しい映像だけを繋いでいくという、本職の人にはかなり乱暴な作業に見えたと思う。オッチーくんにも最初はわかってもらえなかったし……。個人的に「設計図ありき」がとても苦手なので、バンドでジャムってる感覚で作業した。どこに着地するか誰にもわからないワクワク感が好きだし、そういう風に仕上がったと思ってる。


―――渡辺圭一監督のこの「Seaching for "land of music"」には、ドキュメンタリー作品にはつきもののあるものが一切使われていませんよね。でも、アルバムプロジェクトに最初から付き合ってきた賛同者たちには、最初の小淵沢のスタジオのシーンからヒートウェイヴのレコーディングを追体験でき、また、そんな事情を知らなくてもアルバム『land of music』のリスナーには、この音が鳴るまでの過程を映像を見ながら感じることができます。ヒートウェイヴが選んだレコーディング環境、山梨の小淵沢も、ミックス作業の熊本の阿蘇も素晴らしい自然の中ですね。


渡辺圭一 この「Seaching for "land of music"」という作品はいわゆるドキュメンタリーではないと思う。深夜のドキュメンタリーものとかNHKのとか、そういった番組を否定はしないけど、編集前からそんな「いわゆるドキュメンタリー」にならないようにしようとだけは思ってた。ありのままの姿を時系列に沿って、メンバーやスタッフの苦労話や挫折・苦悩とかをテロップやナレーションで追ってゆくみたいなドキュメント・ストーリーは今回は違うかなと。俺たちの苦労とか見せる必要はないと思ってね。「そこが見たいんじゃ!」という人も多いだろうけど、見せん(笑)! 奮闘は伝わると思うよ。あとはご想像に(笑)。
それぞれが「land of music」をキーワードに旅に出る。そんな作品がいいと思ったんで、ドキュメンタリーというより、いわば「land of music the movie」って感じなんかな。
小淵沢のスタジオも阿蘇も、抜群の環境にあったから絵的には申し分なかったしね。ただ、演奏とかに入ると当然室内だから、暗い部屋、同じ服が続いて貧乏臭くて困ったな(笑)。とにかく素材が膨大なもんで、「マル秘映像シリーズ」とかやったらあと2〜3本くらい創れそう(笑)。


―――スタジオでのレコーディングはもちろん全員によるものですが、ファミレスで、公園のベンチで、ガスタンクの前でヘッドフォンで音楽に没入する細海魚、ギターを弾くでもコンピュータのキーボードで言葉を紡ぐでもなく「ミックス」という不思議な、たぶん繊細な作業に悩む山口洋、牧場がこれほど似合い、鉋(かんな)を自在に扱う池畑潤二の姿など、これまで観たことのない各メンバーのシーンも捉えられていますが、圭一さん自身も、アルバム『land of music』のジャケットをデザインし、山口さん、魚さんに披露するシーンが出てきます。あの時はどんな気持ちだったんですか?


渡辺圭一 (レコーディング以外は)全く違う場所で、それぞれパーソナルな時間を過ごしてるけど、こうやって見ると、ある何かで繋がってたり……。ジャケットの制作時は、山口某(ぷぷっ)も阿蘇でミックス中だったんで、手元にあるリズムトラック+αくらいの仮ミックスを聴いたりしてアルバムの完成形を想像しながら進めてた。デザインの手がかりは「land of music」というタイトルのみ。あとは目を閉じるだけ。
そりゃあ、コンピュータのボタンをポンっで出来上がることはないんで、いろいろ悶えましたとも。俺なりにパスパスの脳みそで宇宙に行ったりどっかの高速道路やったりどっかの水の中やったり。最終的に決めたのは寒そうに流れる何気ない車窓風景。なんか最高やん!とひとり盛り上がったな。その「なんか」が良かったんよね。「なんか」って素敵! そんで意気揚々と(デザインしたものを)阿蘇に見せに行ったが、初見は反応悪し(笑)。おいおい。俺らの創った音楽と共にもっとじっくり見てくれよ。窓の外にまで白い息が飛んで行きそうじゃないか。


―――アルバムプロジェクト発足から『land of music』完成まで。副産物として、圭一さんがデザインを手がけた山口洋ソロアルバム『made in Aso』や、このボックスセットで、約2年間の『land of music』に関わる日々も完結ですが、これから『land of music "the Rising"』を手にする人にメッセージをお願いします。


渡辺圭一 このボックスセット『land of music "the Rising"』はとにかく、みんなで必死こいて辿り着いた場所。全部ひっくるめて素晴らしい芸術作品と思ってるんで、是非そこに立って見渡して欲しいと思う。DVD「Seaching for "land of music"」の見所は?と訊かれるとアレもコレもあって困るな(笑)。山口某のセクシー入浴シーンとか(笑)、池畑さんも心温まる素晴らしい場面多数! 何より今回は細海魚さんの登場が多いんですよ。謎の多かった魚さんがふんだんに登場してますので是非楽しみに!