「(『made in Aso』は)『歌いたいとき』に『歌いたい歌』を歌ったんだ。何も考えず。何の制約も受けず」山口洋


阿蘇、2007年。撮影=山口洋


―――東京から約1200キロ離れた熊本・阿蘇の山中で、山口洋はここ数年、少なくない時間を過ごしています。アルバム『land of music』の中のいくつかの曲はここで書かかれました。山口洋インタビュー、第一回第二回に続いての今回は、阿蘇について訊いてみました。これからの季節の阿蘇はいかがですか?


山口洋 阿蘇の冬はね、「何もない冬です」。冷える日はマイナス12度ぐらいまでいきます。携帯もほぼ繋がらないし、ネットはアナログ、テレビも映らず。そういう環境に居るのが好きなのよ、俺。飯を喰おうにも自分で作るしかないし、薪を割らなきゃ凍え死ぬ。でも、じんわりと自分が見えてくるとです。


―――『land of music』において、阿蘇で曲を書き、ミックス作業をした大きな理由は何ですか? 自然の中という環境で困ったことはありませんでしたか?


山口洋 静かに自分と向き合いたかったっちゅーのがひとつ。都会だろうが自然の中だろうが、どんな環境でも響くアルバムにしたかった。
ミックス作業はね、アルバムプロジェクトの締め切りがあったんだ。追い込まれてたんだ。都会じゃ、到底貫徹できないと思った。だから、ひとり山の中に全て機材を運んで、3週間くらいこもってた。
殆ど、スピーカーの向こうに幻影を見てたよ。仙人みたいな生活だよ。最後の3日間、細海魚が助けに来てくれた。彼が来てくんなかったら、俺ほんとに成仏してたかもね。



―――2007年秋にリリースされたソロ・アルバム『made in Aso』は、タイトル通り、レコーディングもすべて阿蘇で行われています。「ソロ」も、「アコースティック・アルバム」というのも初の試みですが、このアルバムを創った経緯を教えてください。


山口洋 都会のレコーディングスタジオがだんだん苦手になってきた。何だか、長居すると辛いんだ。莫大な金もかかる。でも、日本全国をギター一本抱えて廻って、確実に自分の中で何かが変わったんだ。ギター一本で出来ることを自由にやってみたかった。だから機材の電源はいつもオンにしてた。「歌いたいとき」に「歌いたい歌」を歌ったんだ。何も考えず。何の制約も受けず。
あ、ひとつだけ自分に課したルールは「何も修正しない」ってことだね。あるがまま。雨が降ったら、そんな音楽にしかならんのよ。愉しかったよ。リスナーの家に、俺がギター抱えて歌いに来ました。ちゅー感じで聴いてもらえると嬉しい。阿蘇の風景と共にね。


―――今回のボックスセット『land of music "the Rising"』収録の渡辺圭一監督によるドキュメンタリーDVDにも阿蘇での多くのシーンが映っていますが、その中でも印象的なのが、あるものを手にして草原の中ではしゃぐ山口さんの笑顔。あれは阿蘇での必需品ですか?


山口洋 失礼な! はしゃいでんじゃなくて、あれ、いちおう、闘いなんだよ。あれがないと家にも入れないんだから。