「全国各地にこういう連中が居てくれるってのは財産だと思ってるし、俺たちゃ、仲良しクラブじゃないんだから、ライヴで燃えなきゃ、ステージに立つ資格なしだね」山口洋


―――アルバム『land of music』では、「日本全国に散らばる謎のレコード会社。その数、1711人」が制作資金を捻出し、ツアーでは各地でライヴを支えてくれる人が、プロモーションでも(例えば名古屋ではこのように)それぞれの場所で尽力してくれる人たちがいて、ヒートウェイヴの「航海」は続いています。広島のDJ、ボンバー石井さんもそのひとり。「奴は自分の仕事もせずに、俺のライヴのために奔走してくれる、奇特な輩」山口洋が2006年3月5日のダイアリーに記したボンバー石井さんは、広島でのライヴ翌日、山口洋を連れ、地元の新聞社、ラジオ局を廻る「自主的キャンペーンの日」を送ってますよね。お互いが知り合ったきっかけ、お互いの魅力をまず教えてください。


山口洋 ボンバーねぇ。あいつは何だろうねぇ、弟みたいなもんかな、出来の悪い。初めて会った時、奴はティーン・エイジャーじゃなかったかなぁ。それから20数年のうちにいろいろあったけど、お互い、未だにこうやって刺激し合いつつ、生きてるって訳だ。奴の自慢は水野晴郎さんの「シベリア超特急」に出演したこと。俺、まだ観てないけど。


ボンバー石井 ヒロシに出会ったのは今から21年前。
今は無き「クエスト」というライヴハウスだった。当時僕はバンドを組んでいて、地元のコンテストに出ればグランプリや優秀賞を得て、鼻がどこまでも伸びていたのです。そんな時、ボーカルのケイコちゃんに誘われてHEATWAVEのライヴを観に行ったのでした。「クエスト」は地元のライヴハウスで相手にされないパンクバンドが出演するライヴハウスで、「どんなバンドなんじゃろう??」という思いで、そんなに期待せずに観にいったのでした。
いよいよHEATWAVEの出番。出てきたのは501のジーンズに白いTシャツをインして、グレッチカントリージェントルマンを抱えた、目つきの悪い男。いざ演奏が始まると、怒りに燃えた歌に、今まで見たこと聴いたことのないギターが飛び込んできた。「なんじゃこりゃ!?」 僕のどこまでも伸びた鼻は、根本から「ポッキリ」と音を立てて折れた。ライヴが終わり一瞬話しをしたが、内容をはっきりとは覚えていない。それからというものHEATWAVEが広島に来るたびライヴを観に行くようになる。時にPAに毒づき、客に毒づき、ドラムに毒づき、会場に水をぶちまけ、怒りの固まりの男だった。しかしよくわからなかったが、もの凄いエネルギーの固まりだった。
その後、僕はTVの音楽番組を担当するようになり、1990年にHEATWAVEがメジャーデビューし再会。広島EPIC堀井氏が会わせてくれたのだった。お好み村にて3人で昼間から鉄板と格闘したのを覚えている。その時のヒロシの一言、「おう、あの時のギター少年か!」(ちなみにあなたとは3歳しか離れていませんから……)。その後、ヒロシが広島に来るたび酒を飲むようになる。毎回楽しくも酷い飲みである。約20年の付き合いになるけど、僕にとっては兄貴みたいな存在。かなり出来は悪いけど……。
自分の直感を信じ、思いを実現させるために、よろけながら、這い蹲りながら棘の道を突き進んでいる一方で、オチャメでギャグが好きで気遣いの出来る人。毎回一緒にバカばっかりして、深い話なんてほとんどしていないけど、やりたいこと、ホントに言いたいことはなんとなくわかる不思議な関係です。


―――レコード会社を離れて制作したアルバム『land of music』をリリースしたあとのプロモーションやツアーで、それまでの音楽業界のシステムでのものと大きく変わったことは何でしたか? また、ボンバーさんはヒートウェイヴがこのようなアルバムプロジェクトを行ったことへの感想を教えてください。


山口洋 その応えは、ボンバーに任す。ひひ。


ボンバー石井 最初に話を聞いた感想は、「こんな途方もないことやるの!?」 だけどHEATWAVEならやっちゃうんだろうなって思いました。


―――ライヴ当日も、「今日はリハーサルをさっさと終えて、(自分たちのビラ入れを)ボンバーと二人でやりました。超新鮮」だったそうですが(笑)。


ボンバー石井 だって他にビラ入れする人がいないからです!(笑) 出来ることは自分でする。村上春樹さんの小説の一文に「どんな髭剃りにも哲学がある」とありましたが、ビラ入れも効率などを考えてやると楽しいですよ〜。ヒロシに関しては手伝いをしている感覚はなくって、一緒にライヴを作ってる感じですかねぇ。お手伝いは嫌いです。


―――2006年からのソロツアー「on the road, again」で小さな町をたくさん廻り、各地のライヴ主催者やボンバー石井さんのような協力者たちに出会って山口さんが強く感じたことは? また、大阪と福岡の真ん中あたりに位置する広島や岡山のような町で、音楽ファンであり、音楽を伝える立場であるボンバーさんが常に感じてる、心がけてるのはどんなことですか?


山口洋 そうねぇ、既存のイベンターがすべて「否」じゃない。でも、一人で廻る時はイベンターが居て、マネージャーが居ると、ガードが多過ぎて観たいものまで見えなくなるんだ。そんな意味で、全国各地にこういう連中が居てくれるってのは財産だと思ってるし、俺たちゃ、仲良しクラブじゃないんだから、ライヴで燃えなきゃ、ステージに立つ資格なしだね。


ボンバー石井 直感を信じ、自分に嘘をつかない事。また、リスナーにも嘘をつかない事。思いっきり楽しむ事。


―――3月3日(月)広島・CLUB QUATTROに来るファンへのメッセージをお願いします。
最後にボンバーさん、山口洋のダイアリーによく出てくる、ドキュメンタリーDVDでも一瞬映っていた広島での「ヒロシズ・ナイト」とは何なんですか?


山口洋 その応えもボンバーに任すぜー。酸っぱすぎて、云いたくねぇ。「魂のもみじ饅頭」じゃねー?


ボンバー石井 「ヒロシズ・ナイト」とは……一言でいうなら、上半身裸の男達が、朝まで爆音で流れるモッズ・サウンドに合わせ踊り続ける地獄の耐久イベント。
そもそもは2002年にヤポネシアン・ボールズ・ファウンデーションの広島公演の夜からスタート。当日のお客さんの入りは伝説の50人程度。軽い打ち上げのあと向かった先は、「広島のブルックリン」といわれるタカノバシ。そこには僕の大好きな場所、その名も「スリムチャンススタジオ」(略してスリチャン)がある。お店の名前はもちろんロニー・レーンから命名。ここの名物はマスターのオカちゃん。オカちゃんとも20年の付き合いになるがこんなに面白い男は他にいない。ここに荒くれ4人衆を連れて行くと何かが起こると思ったのだった。
メンバーをお店に連れて行き、酒を飲み始めたところでストーンズを連発。するとみんなダンスフロアに移動し始め、凶悪の夜が始まった。獣と化したメンバーは上半身裸になり踊り、店中のビールやテキーラが底をつき、グラスというグラスは破壊され(いまだに記録は破られていない)、フロアは酒の海となった。某ドラマーはFMの女の子に土下座をし、イカレタ宴は朝まで続いたのだった。某ボーカル&ギターは帰りのタクシーで途中下車し、電柱にしがみついてうなされていたという……。そんな悪夢からしばらくして、ヒロシがソロで広島に来るというライヴも無事大盛況で終わり、軽い打ち上げのあと向かったのはもちろん「スリチャン」。ヒロシ一人でもやることは一緒。男はみんな上半身裸。知らない間にテキーラが廻ってくる(ヒロシがみんなに奢りまくり。一晩で3万円振る舞うこともある。なんと60杯……)朝にはみんな泥状態。その日は人としてまともな生活は出来ない。その次あたりからヒロシが広島に来るという情報が入ると仲間内では、「やった〜! ヒロシのライヴじゃ〜!」ではなく、「うっっっ…、ヒロシズ・ナイトか…。」になっている。まさに男と男の意地のぶつかり合い。逃げ出したら負けになるので、辛いことがわかっていても全員参加のイベントなのです。そこまで辛い事を毎回逃げ出さず参加するヒロシはステキです。
※他にも奥野真哉ナイト、ノマアキコ・ナイト、フラカン・ナイト、スクービー・ナイトetc.とありますがヒロシズ・ナイトが最強です。


HEATWAVE
TOUR 2008 "The Rising" Trio Session
池畑潤二/渡辺圭一/山口洋

3月3日(月) 広島・CLUB QUATTRO
開場/開演=18:30/19:30
チケット料金=4,000円(税込/ドリンク代別途)
チケット=チケットぴあ、ローソンチケット、e+、デオデオ本店プレイガイドにて発売中
問=広島CLUB QUATTRO (TEL_082-542-2280)